おくむら先生の七色のひきだし

すきっぷそのほか

臨床発達心理士の奥村康枝です。

「できるのにしない」わけ

朝すきっぷに登園してくれば、持ち物の整理をします。保育園・幼稚園でも同じですよね。毎日、毎回のことですができる日もあればできない日もあります。それでも同じことを繰り返し根気よく練習することで定着し、ほめてもらうと嬉しくて、自分でできることが少しずつ増えてきて…おうちでも同じようなことがありますよね。子どもたちは坂道を上るように順調に力をつけていくのではなく、その段階を行きつ戻りつ、時間をかけ、その力を使ったたくさんの体験を通して力をため込み、次のステップにポンと上がります。

小学校へ入学した、りっちゃん。りっちゃんは保育園の年長さんでは自分で着替えができるようになっていました。お母さんは、大人を頼ることなく当たり前のように着替えることができるようになったりっちゃんを誇らしく思っていました。けれど入学を機に着替えを手伝ってもらわないとできなくなってしまいました。お母さんが「保育園の時は自分で着替えれてたよね。小学校に入学したのだから」と励ましますが、自分で着替えようとはせず「ふくきせて。ズボンはかせて。」と駄々をこねます。お母さんはせっかくできるようになっていたのだから「自分でさせなければ。」「甘やかしてはいけない。」と自分で着替えるよう促します。朝の忙しい時間です。お母さんの語気もだんだん強くなりますがぐずぐずと自分で着替えようとはしません。お母さんは「登校拒否?」と不安になりながらも手伝った方が手っ取り早いと着替えを手伝います。あるあるですよね。

りっちゃんは着替えを手伝ってもらうと一瞬お母さんをぎゅっとハグし、「仕方がないわね。」と笑顔でお母さんもそのハグに応え抱きしめます。すると、ぼちぼち体(心も)が動き出し、トイレに行き、歯磨きをして元気に出かけていきます。

小学校に入学という新しい環境に適応していくため大きな努力を強いられているりっちゃん。まだ未熟なので言葉で表現することはできませんが、その環境に立ち向かうためには心の支えが必要なのです。着替えを手伝ってもらうことと一瞬のハグはその無意識レベルの欲求を満たしてくれます。

 

このように赤ちゃん返りに見える行動には意味があり、受け止めてもらうことで心を充足させ、新しいことに挑戦する力につながっていきます。

 

「自分でできるでしょ。」「甘えないで。」と突き放せば「できる」かもしれませんが、この段階では「やらされている。」にとどまりまだまだ本物ではありません。行きつ戻りつ、甘えを受け止めてもらいながら本物の「できる」につなげていきたいですね。その時子どもは一つ階段を上ることになるのでしょう。

 

さありっちゃんはいつまで着替えのお手伝いを要求するでしょうか。お母さんが「手伝おうか?」と声をかけてもお断りをされてしまう時がきっと来るはずです。

「できるのにしない」わけはたくさんあると思います。次回もエピソードで紹介したいと思います。